机の上に広げた小銭入れの奥から、一枚の五十円玉が出てきた。銀色はところどころくすみ、指で触れるとかすかなざらつきが残る。昭和四十一年の刻印が、スタンドの灯りに照らされて浮かび上がる。
灯りと影のなかで
手のひらに載せると、思ったより重い。現在の五十円玉よりも直径が一回り大きく、縁のギザギザが指先に食い込む。裏の菊の紋章は、中央の穴の周りに彫られた繊細な花びらが、光の加減で陰影を変える。机の表面に落ちた影は、まるで別の形をした硬貨のように歪んでいる。
耳を澄ますと
指先で軽く弾くと、澄んだ高い音が一瞬だけ部屋に響く。この音を聞き分ける人がいるのだろう。今日のニュースで、同じ年に作られた五十円玉が高値で取引されたと知った。エラーコインでもないのに、なぜか——理由はよくわからないが、どうやらその年のデザインが一部の収集家に好まれているらしい。
触れるかわりに
もう一度手のひらに載せ、じっと見つめる。刻まれた年号は、自分が生まれるずっと前のものだ。その間に何度も誰かの手を渡り、釣銭として投げ出され、あるいは貯金箱の底で眠っていたのかもしれない。今、夜の静けさの中で、ただ僕だけがその表面の傷や曇りを確かめている。
やがて小銭入れに戻そうとして、少し迷った。そのまま机の引き出しの隅に置いておくことにした。
