ひっそりした空間に目を落として
曇り空の午後、街中の喧騒から少し離れて小さな路地に立ち止まる。さっと風が肌を撫で、湿り気を帯びた空気は節度を持って体の奥に届く。壁の隅に貼られた紙は、日に焼けて端が反り返り、ところどころ文字が薄くなっている。時間の流れが文字からにじみ出し、気づかないうちに身の回りも同じように重ねられてきた時間を抱えていることに気づく。
色あせた看板とその先に見えたもの
壁にかかった小さな看板は、赤い色が少し褪せ、輪郭がぼんやりしている。人目につかない場所なのか、何度か掃き清められたのだろうか、ほこりは薄く積もったまま。わずかではあるけれど、細かな汚れの層が重なり合って、そこに存在する確かな時間を示している。目線を下げて地面を見ると、捨てられたティッシュが風に触れてゆらゆら揺れた。見過ごしがちな午後のささやかな動きが肌に伝わる。
ふと漏れる独白と共にすっと戻る視線
時折、背筋が伸びて小さな何かに尋ねるように視線が揺れる。足元の敷石のわずかな傾き、落ちた小枝のフォルム、見知らぬ日の空気感が蘇る。ぼんやりしていた意識が、路地の中にしみ込んだ時間にゆっくりと絡まる。ささいな貼り紙の文字も、くすんだ色合いと重なり合って、その存在がぽつりぽつりと語りかけてくるようだ。ひと呼吸おいて、目を離してみても、そのほんのわずかな変化は確かに心の片隅に残ったままだった。
