台所の明かり
台所の蛍光灯がチカチカと瞬いている。交換時期はとうに過ぎているのに、まだ何とか頑張ってくれている。冷蔵庫の前に立つと、足裏にリノリウムの床の冷たさが伝わってくる。
取っ手に手をかけると、金属の冷たさが指先を包む。今日何度目だろう、この扉を開けるのは。朝の牛乳、昼の残り物、そして今。取っ手には指紋がいくつも重なっている。拭き取ることもなく、ただ積み重なっていく日々の痕跡。
缶の重さ
扉を開けると、庫内の白い光が顔を照らす。目を細めながら、いつもの場所に手を伸ばす。缶ビールが三本、きちんと並んでいる。昨日の夜に補充したものだ。
一本取り出すと、アルミの表面に水滴がついている。手のひらに収まる重さが、妙に心地いい。缶を少し握りしめてから、もう片方の手で扉を閉める。パタンという音が、静かな台所に響く。
プルタブに指をかける。カシュッという音とともに、細かい泡が缶の口から立ち上る。最初の一口を飲むと、炭酸が喉を通っていく。肩の力が少しずつ抜けていくのがわかる。
明かりを消す前に
缶を持ったまま、台所を見回す。流しには夕食の皿が一枚、伏せて置いてある。テーブルの上には、朝刊がそのまま広げられている。冷蔵庫の扉には、磁石で留められたメモがいくつか。
もう一口、ビールを飲む。苦味が舌に広がって、ゆっくりと消えていく。蛍光灯がまたチカチカと瞬く。そろそろ寝室に向かおうか。
缶を持つ手が、わずかに震えているのに気づく。疲れているんだな、と思う。あなたも、こんな夜があるだろうか。冷蔵庫の取っ手に、また新しい指紋が一つ加わった。
