軒先の律動
街角の古い喫茶店で、立ち止まった。庇の先端から、重力に抗いきれなくなった雫が、途切れなくコンクリートの路面へ落ち続けている。湿り気を孕んだ空気が肌にまとわりつき、湿度計の針が振り切れるような午後がそこにある。庇の金属部分は古びて錆が浮き、そこを伝う水は一筋の線となって先端に集まる。膨らみ、形を歪ませ、最後に丸い球となって弾ける。この単純な繰り返しを、私はただ背を丸めて眺めていた。
硬質な円と重なり
路面のコンクリートには、絶え間ない衝撃で刻まれた無数の小さな円がある。水が水に触れ、広がる波紋がまた別の雫と重なる。新しい円が古い円を追い越し、消えていく。まるで何かの記号が刻まれては消されるような、終わりのない作業を傍観している。指先をポケットに押し込み、布の質感を確かめながら、そのリズムに意識を同期させる。一度だけ、この雫の数だけ言葉を積み上げては壊してきたような、そんな感覚が胸の奥をかすめた。傘の先が濡れ、足元に小さな水溜まりが広がる。誰かが通り過ぎていく気配はあっても、視線は地面から離れることはない。重く湿った空気が、世界をこの軒先だけに限定させているようだった。次にどこへ向かうべきか、その答えを探す代わりに、ただ重なっていく波紋の行方を見届け続けている。雨は変わらず、同じ場所を叩き続けていた。
