木目の奥に潜む

木彫りの八咫烏と兎の彫刻

日が沈み、街灯がぽつぽつと灯り始める薄暮の時間。一日の熱がまだアスファルトに残る中、路地の奥で木工所の引き戸の隙間から温かな光が漏れている。思わず足を止め、中を覗き込んだ。

八咫烏と兎

作業台の上に、一枚の板が斜めに立てかけられている。反った形の妻板には、二羽の鳥と一匹の兎が彫られていた。鳥の嘴は鋭く、羽根の一枚一枚が細かな鑿跡で刻まれ、風を切るような動きを感じさせる。兎は耳を立て、前方をじっと見つめるように前足を揃えている。どちらも静かな力が宿っているようだ。表面の木目はゆるやかに波打ち、彫り跡の凹凸が裸電球の光を浴びて濃淡の影を落とす。削り屑の山が脚元に積もり、檜の香りが立ち込めている。

鑿跡の深さ

何度も鑿を当てた跡が、木の表面に無数の陰影を作っている。深くえぐられた溝と、浅く撫でるような線が混在する。その一本一本が、彫る者の息づかいと腕の動きを伝えているように思えた。見ているうちに、自分の呼吸がゆっくりと深くなるのを感じる。少し冷えた空気が裸電球の熱で温められ、静寂が続く。耳を澄ませば、遠くで蝉の声が聞こえるかもしれないが、この作業場の中は時が止まったようだ。

路地へ戻ると、空の青はまだ完全には消えていない。あの彫りの一本一本は、来週の山鉾巡行で、街の中を進んでいくのだろう。そう思うと、夕暮れの空がどこか違って見えた。