灯りをつけるときのゆらぎ
寝室のドアを静かに押し開けた。布団より先に小さなスイッチを探し当て、薄暗さを切り裂くように灯りがともる。ゆるやかに壁を走る家具の影が、まるで呼吸しているように揺れる。畳の縞模様が光と影で変形し、目を離したくない何かが潜みそうな気配を連れてくる。
家具の隅に宿る微かな存在感
収納棚の角は長年のほこりをひそめていて、引き出しの隙間からは整頓されきれなかった日々の形が少し覗く。枕元のテーブルの上には、水の入ったコップが小さな輪染みをつくっていた。手のひらで触れれば冷たさが伝わってきそうな質感だが、今の空気はほんのり湿り気を含んでいる。
音のない空間に落ちる時間
窓の外からは遠くの車の音がぼんやりと届き、部屋の静けさに響く。足音がドアの上の天井へかすかに反響し、布団を整える指先の動きに呼応するように、目の前の影が少し右へ揺れた。深呼吸して、背筋を伸ばすと、偶然にも灯りに浮かんでいたすべてが少しだけ近く感じられた。
ふと、立ったままそこでまわりの影を追いかけているうちに、耐えがたいほどの静寂が手の内で溶けていくように思い、足がじわりと震えた。こんな時間にひとりだけがわかる見落としやすいささやかなものたちも、存在しているのだと、ふたたび灯りのスイッチを押し直しそうになる衝動が膨らむ。
