便箋の数字
机の端に置かれたメモ用紙が、曇り空の光を受けて薄く影を落としている。紙はやや黄ばみ、角が少しめくれていた。そこには黒のボールペンで十一桁の数字が並んでいた。以前使っていた固定電話の番号だ。もうずいぶん長い間、その回線は使っていない。数字だけが、紙の上に残されている。
090から060へ
スマートフォンでニュースを確認すると、060から始まる番号の提供が延期になったという。新しい桁が加わる予定だった。090や080、070と、この二十年で割り当てられる番号は増えてきた。メモ用紙の数字は090で始まっている。古い番号だ。いつからこの番号を使っていたのか、正確な時期は思い出せない。
数字の重み
数字そのものには意味はない。ただ、一度誰かに割り当てられると、その人の一部のように張り付く。回線を解約しても、紙の上ではまだそこにある。窓の外は曇ったままだ。風がなく、空気は重い。机の上に置かれた数字を、もう一度だけ目でなぞった。新しくなるはずだった060の番号も、いずれ誰かの記憶のどこかに残るのだろう。
