掌に触れる湿った樹皮

湿った木の幹に触れる手元

幹の表面を指でなぞる

どんよりとした雲が頭上に低く垂れ込めている。公園の隅、ひときわ大きく枝を広げた木の幹に、そっと掌を預けた。指先には、冬を越して蓄積された樹皮の硬さと、今の季節特有の湿り気が微かに残る。表面には細かな裂け目が走り、その溝のひとつひとつに、吸い込まれるような深みが宿っている。爪の先で軽く表面を弾くと、乾いた低い音が鈍く響き、湿った空気に溶けて消えていく。手のひらを通して伝わる冷たさは、地中から吸い上げられた水の気配を物語っているようだ。

指先に宿る重みと距離

指の腹を滑らせるたび、木肌のざらつきが皮膚の柔らかさを押し返す。力を込めれば込めるほど、自身の指先に無意識のうちに力が入っていることに気づかされる。関節の筋が白く浮き上がり、肌の熱がゆっくりと樹皮へと移ろっていく。周囲を見渡せば、風に揺れる葉先が重たい空気をかき混ぜているが、ここだけは別の時間が流れているような静けさが漂う。誰の視線もない場所で、ただ木の一部に触れているという事実は、足元に堆積した腐葉土の微かな匂いと共に、今の状況を静かに縁取っている。何度も同じ場所を撫でる指の動きだけが、この場の唯一の輪郭となって残り続けている。ふと、空を見上げれば、雲の切れ間はどこにもなく、視線はまた樹皮の凹凸へと戻る。このまま時間を止めるように、指先を離さずにいた。