机上の充電器と置き去りの記憶

デスクの上に置かれた黒い充電器

視界の隅にある微かな黒

窓の外では霧雨が途切れることなく降っている。湿った空気がカーテンの隙間から滑り込み、部屋の中を重たい静寂で満たしている。デスクの上にポツンと置かれた黒い充電器に、ぼんやりと視線を落とす。先月の滞在先で、どうやら荷物の中に紛れ込ませてしまったらしい。プラスチックの滑らかな質感と、硬いケーブルの巻き癖が指先に触れる。その感触は、どこか見知らぬ他人の気配を孕んでいるようで、そのまま指を離すこともできずにいる。

指先に伝わる無機質な重さ

コードを丁寧に巻き直してみる。ケーブルの端にある金属のコネクタが、鈍く光を反射する。この小さな機械は、誰かの切実な繋がりを支えていたはずのものだ。持ち主が最後に使ったのは、どのタイミングだったのだろう。見知らぬ街の夜、誰かを探すための合図だったのかもしれない。そう想像を巡らせると、手の中にある無機質な物体が、急にどこか遠くの温度を帯びたように思えてくる。自分がここに持ち帰ってしまったという事実は、ただの不注意という言葉では片付けられない何かが沈殿している。

形のない残余

雨音だけがリズムを刻む昼下がり、何度も同じ箇所を親指でなぞる。表面に刻まれた微細な傷は、誰かが繰り返し抜き差しした痕跡だろう。所有者が変わったわけではないのに、なぜか手放すことへの逡巡が胸の内に広がる。このまま引き出しの奥に仕舞い込めば、遠い日の記憶として埋もれていくだろうか。再び光が差し込む頃には、この充電器をどう扱うべきか、ただ窓の外の曇天を見つめながら考えている。湿った指先で、もう一度だけコードの弾力を確かめる。