色褪せた壁の細部に留まる視線
曇り空が街の輪郭をぼんやりと包み込み、湿度を感じる空気が漂っている。路地の壁に手をかざすと、わずかに冷たい湿り気が伝わる。ペンキの剥がれたところにこびりついた埃は、昨日までの雨の痕跡をわずかに語る。指先が触れた微妙な凹凸に視線を落としながら、通り過ぎる人のざわめきが遠ざかっていく。
ひび割れから生まれる影と時間の層
壁のひび割れはまるで過去の断片。細い線が交差し、そこに午前の柔らかな光が落ちて細長い影を描く。足元には小さな苔がじっと根を張り、見過ごされがちな存在なのにしっかりと時間を刻んでいる。おそらく最近の弱い雨で湿り、空気の濃度が一段と増したのだろう。
気づけば手が壁に触れている
立ち止まったまま、何度も壁を撫でるように手を這わせていた。無意識に足の裏が細い砂粒を踏みしめ、呼吸は少し乱れている。外側の世界と自分の間に隙間ができて、その静かな隙間を埋めるように壁の肌理に意識を向けていた。誰も咎める気配のないこの路地のなかで、ぼんやりとしていると時間の流れも違って感じられた。
