台所に残る熱と音
帰宅してすぐ、薄暗い台所の灯りがぽつりと点く。窓の外は静まり返り、室内の冷気がほんの少しだけ和らぐのを感じる。冷蔵庫の扉を開けるとわずかな光がこぼれ、静かな空白の中に微かなざわめきが忍び込む。どこかでまだ湯気が立つやかんの音、水道の蛇口をひねったときの冷たい水の流れ。夜の空気に混じるそれらは、小さく孤独な連続音のようだ。
しじまの中の生活音
ゴム手袋の跡がついたシンクの表面、洗い物を終えたあとに残る水滴にふと目がとまる。大げさな動きはないのに、消えそうで消えない微かな生活の跡が、なおさらその場を刻む。木の床を歩く靴音の代わりに、紙の袋を折りたたむ音や、開けた扉がゆるやかに閉まる音が響いた。
寝室への移ろいを待ちながら
そのままリビングに移り、毛布の感触を確かめながら、静かな時間がそのままふくれてゆく。背伸びをしたように体のあちこちがこわばりながら、窓の外のざわめきと家の中の気配の違いに耳を澄ます。風はひと息で誰かの話し声も聞こえず、ただ夜の染み込む湿気だけが少しずつ広がっていく。
