横断歩道の縁で揺れる影
湿り気の残る路面が、薄い光を静かにまとっている。信号が赤に変わって流れが止まった人々の足元に視線が落ちる。色の濃淡が微かにうごき、靴底が舗装に触れる音が小さく響いた。濡れたアスファルトは乾ききらず、まだらに濃い部分を残したままだ。誰の足跡か、すでに消え始めているものもある。
立ち止まる身体の隅
手のひらで鞄の紐を握りかえた。振り向くこともなく、ただ身体の重みを均等に受け止めながら、足先をそっと動かす。通り過ぎる自転車の音が混ざり、遠くから車のエンジン音が聴こえる。背後の店先に並ぶ色とりどりの商品は、一瞬の視線で霞み、すぐに足元へ戻った。
静かな間のなかの気配
信号の青を待つそれぞれの影が、すこしずつ位置を変えた。風に揺れるビニール傘の端がかすかに揺れ、足元の影が間を詰めたり離れたりする。周辺の静けさが冷たさを帯びず、じっとりとした湿度を感じさせる。どこからか遠く、花の香りが潮のように漂ってきていて、一瞬、身体の張りつめた感覚がゆるんだ。
見落とされそうなほどの細い光と影の重なりを、つい見つめてしまう。隣の人のひざがふと動く度に、それがこちらのリズムをかき乱し、ふっと息が詰まる。信号が変わるのを待つ、この刹那の間。わずかな揺れが確かにそこにあって、街の片隅の音のなかに小さな気づきの種が落ちているのだろう。
