汗が冷える場所
山道の折り返しに置かれた木のベンチに腰を下ろすと、背中に張り付いていたシャツが離れた。汗で濡れた部分に風が当たって、ひんやりとした感触が走る。靴紐がゆるんでいることに気づいて、片足を膝の上に乗せた。
結び目をほどくと、靴の中で縮こまっていた指が少し伸びる。土埃のついた紐を引っ張りながら、さっきまで登ってきた道を振り返る。木々の間から、歩いてきた道がところどころ見え隠れしている。
足元の小さな世界
ベンチの脇に、苔むした石がごろごろと転がっている。その隙間から、名前の知らない草が細い茎を伸ばしていた。葉の先に小さな虫がとまっていて、風が吹くたびに一緒に揺れる。
靴紐を結び直していると、手の甲に日差しが当たる。初夏の山の日差しは、街のそれとは違う質感を持っている。肌に当たる部分だけがじりじりと熱くなって、日陰に入るとすぐに冷める。
立ち上がろうとして、また座り直した。まだ息が整っていない。胸の奥で心臓が規則的に打っている音が、静かな山の中でやけに大きく聞こえる。
続く道と戻る道
ここから先の道は、地図によればもう少し急になるらしい。ザックの肩紐が食い込んでいる部分をさすりながら、上を見上げる。木々の向こうに、まだ見えない頂上がある。
水筒の水を一口含むと、ぬるくなっていた。それでも喉を通るときの感触は悪くない。ベンチの横に、誰かが置いていったらしい小石が積まれている。崩れかけた石の塔を見ていると、自分もひとつ乗せたくなる。
手近な石を拾い上げて、重さを確かめる。平たいものを選んで、そっと一番上に置いた。少し傾いたが、崩れはしなかった。
