ベンチに腰を下ろして
曇りの午後、公園のベンチに腰を下ろした。先週末の霧雨がうそのように、地面は乾いている。ただ、空一面を曇りが覆っていて、影が薄い。日差しがないぶん、すべての色が均一に見える。
手すりに手を置く。鉄の冷たさはもうなくて、気温に馴染んだ温度になっている。指先で少し叩いてみる。かたい音が二度、響いた。その音が小さく消えるまで待ってから、手を離す。
視線の先にあるもの
目の前の低木の葉は、五月の緑としては落ち着いた色をしている。一枚、裏返った葉があって、白っぽい裏側が目に入る。風が通るたびに、その葉がゆっくり揺れる。あなたが同じ場所に立ったとしたら、この葉をどう見るだろうか。そんなことを考える。
遠くから、自転車のブレーキ音が聞こえる。一瞬、耳をそばだてるが、続かない。また静けさが戻る。かわりに、鳥の声が聞こえた。どこにいるのか見渡すが、見つからない。声だけが何度か繰り返される。
身体の重さと軽さ
体重を少し前にずらすと、ベンチの木の継ぎ目が腿に当たる。座面の位置を変えずに、もう一度体重を預ける。背もたれがないベンチだから、自然と背筋が伸びる。無意識にため息が漏れた。その息が、目の前の空気をほんの少し動かしたような気がする。
かばんの中のペットボトルを取り出して、一口だけ飲む。ぬるい。予想通りの温度に少しだけ笑ってしまった。蓋を閉めて、またかばんにしまう。手のひらに、ペットボトルの結露が少しついた。それをズボンの膝のあたりで拭く。
ベンチの座面は、日差しがないのに温かい。気温の高さがじわじわと伝わってくる。靴の先で、地面の砂を少し描いてみる。乾いた砂が、かすれた音を立てた。
このままもう少しだけ、ここにいようと思う。理由はないけれど、立ち上がるにはまだ早い気がする。空を見上げる。雲の切れ間はない。明日もまた曇りらしい。
