窓辺のコップ
陽の光が届かない分、部屋の中は落ち着いている。冷蔵庫から出したばかりの水を注いだガラスのコップが、手触りのいい汗をかいている。指先で表面をそっとなでると、水滴がいくつかつながって細い筋になった。
窓の外は一面の曇り。空の色は一様で、雲の形もぼんやりとしている。どこかに切れ間があるわけでもなく、かといって今にも雨が降りそうな重さもない。ただじっと、薄い灰色の膜が広がっている。
テーブルの上に肘をついて、目を落とす。コップの底に水滴がたまって、少しずつ輪を広げている。それを指で拭うと、紙ナプキンが湿ってしっとりと柔らかくなった。皆さんも、こういう昼下がりに、ふと手元を見ることがあるだろうか。気づけば何をするでもなく、同じ場所に座っている。
かすかな風
窓が少し開いているらしい。カーテンの裾が、ごくゆっくりと揺れては戻る。風といっても、空気の重さが変わっただけのような、かすかな動きだ。その動きに合わせて、室内の温度がほんのわずかに変わる。肌でそれを感じるたび、今ここにいるということが、やわらかく確かめられるような気がする。
コップの中の水は、もうぬるくなりかけている。一口含むと、温度のない液体が喉を通っていく。外の道からは、遠くで車が通る音がかすかに聞こえるだけだ。
立ち上がる気にもならず、もう少しだけ、このままでいようと思う。視界の端で、水滴がまたひとつ、コップの縁を伝って落ちた。
