湿り気を帯びる鉄の手すり
アパートの二階へと続く外階段の途中で、足を止める。午後を過ぎた時間、空は白い雲に覆われ、霧雨が静かに大気を満たしている。目の前にあるスチール製の手すりに視線を落とす。何度も塗り重ねられたであろう緑色のペンキは、経年変化による細かなひび割れを起こし、その溝に沿って微細な水滴が整列している。右手を伸ばし、手のひらを金属のパイプに乗せてみる。手のひらを通じて伝わってくるのは、五月の生温かい空気とは対照的な、じんわりとした冷たさだ。手のひらをゆっくり手前に滑らせると、ペンキのざらざらとした粒子感とともに、皮膚の上に薄い水の膜が広がる。
境界をにじませる灰色
手すりから視線を外し、階段の下に広がる小さな庭スペースへと目を向ける。そこには、数日前に花を落としたばかりのツツジの茂みがある。濃い緑色をした葉の表面には、霧雨が細かな埃のように降り積もり、水滴とも呼べないほどの白く煙った層を作っている。息を深く吸い込むと、濡れたコンクリートの匂いと、茂みから立ち上る若葉の青臭い匂いが、湿った空気と共に喉の奥へと滑り込んでいく。耳を澄ませば、遠くの幹線道路を走る車の、濡れた路面を走るタイヤが立てる湿った「シャー」という音が、低く反響しながらここまで届く。皆さんも、このような天気の午後に、ふと足元のコンクリートを見つめながら、その濡れ具合を観察したことがあるでしょうか。アスファルトの凹凸に溜まったわずかな水たまりは、空の白さをそのまま反射して、鏡のように平らな面を地面に作り出している。
指先がなぞる一筋の跡
もう一度、手すりの方に視線を戻す。先ほど手のひらでなぞった部分だけが、水滴を拭い去られて、濃い緑色のペンキ本来の鈍い光沢を取り戻している。だが、その乾いたはずの面にも、数十秒の間に、再び目に見えないほど小さな霧雨の粒が静かに降り立ち、徐々に境界を曖昧にしていこうとする。親指の先で、手すりの支柱を固定しているボルトの頭に触れてみる。六角形の金属は他の場所よりも冷たく、指先を数秒押し当てていると、じわじわと体温が吸い取られていく感覚がある。指を離すと、ボルトの頂点に小さな水滴がひとつ、零れ落ちそうで零れない絶妙なバランスを保って留まっていた。その水滴の丸みをただ静かに見つめながら、軽く息を吐き出す。自分の吐き出した息が、目の前の湿った空気に混ざり合って、また静かに消えていく。
